ユニセフ公認
僕はしばしば彼の部屋に行き彼と会話する。
この問題発言も、あるTV番組を見ながらの何気ない会話の中で起こった。

私:「いやー俺も実は天然記念物なんだよ。まあ、人間国宝ってやつだな」

一応断っておくが、私は人間国宝ではない。

私も随分バカなことを言ったものだが、
それは次の展開に期待しているからでもある。

彼:「コウジさんが人間国宝なら、俺は世界遺産ですよ」

これはよくある彼と私のハッタリ競争。
いや、私の何気ない冗談発言に対する、
彼の張り合い的追随自己主張である。

『またこいつは・・・』

と思ったが、また同時に、

『食いついて来たな・・・』

と、心中でほくそ笑んでもいた。

ちょうど退屈していた折り。
ちょっとからかってやろうかと思い、
実際そうすることにした。

彼がハッタリをかましたときは、
私の口車に乗ったかどうかにかかわらず、
大抵の場合、後でぼろが出る。

この大抵に当てはまらないのは、
周りの人間が追求を怠った場合である。

暇をもてあましている私に限って、
それを許すわけはなかった。

今回のケースではぼろとかそういう以前に、
彼が世界遺産ということがあり得ないのだが、
必ずオモシロ展開が待っているはずだった。

基本的に私の追いつめる行為というのは、
言質をとっていき、そこに含まれるパラドックス見つけ、
それを相手に突きつけるというものである。
しかしそんな面倒なことは、
まじめな議論の場で是非相手をやっつけよう、
というシチュエーションでしか使わない。

こういう普段の会話のときなどは、
失言の揚げ足とったり、
発言内容にダメ出しして楽しむ。
そんなわけで、
少し探りを入れながら様子を見て、
機を見て彼を追い込むことにした。

私:「なにいってんの。おまえなんかが世界遺産になれるわけないだろ」

至極当然な質問だ。

彼:「なにいってんですか。法隆寺とか白神山地と同じですよ」

確かに法隆寺と白神山地は世界遺産だ。
意外と彼はそういうことを知っていたりするから、侮れない。

続いて子供の口げんか並みに言い返す。

私:「そんなの誰が決めたんだよ」

もっといい質問があればいいのだろうが、
こういうのは展開の速さというものが、
重要なファクターのひとつである。
相手に息をつかせない、思考する時間を減らす、
ということで『思わず発言』を導くのである。
だから、私が深く考える時間もない。

その殆ど何も考えてない質問に対して、
彼はこのように答えた。

彼:「ユニセフ公認ですよ

一瞬、いや半瞬考えた。そして思った、

『アホか』

と。

意外性とはこのことだろうか。
法隆寺や白神山地が世界遺産であることを知っていて、
その関連団体をユニセフと言うのか。

あまりの張り合いのなさに多少ガッカリしながらも、
イジメの言葉を紡ぐことにした。

私:「へー、じゃあ恵まれない子供たちのために募金活動でもするわけか」

彼:「・・・・・・」  

気付いた様子はない。

続ける。

私:「黒柳徹子と仲いいんか?」

彼:「・・・・・・」  

これといったリアクションがない。
何か自分が過ちを犯したことには気付いているようだが、
その過ちが何かわかっていないのだろう。

私は決定的な言葉を彼に投げかけた。

私:「さすがに白神山地や法隆寺とは違うよな。だってあっちはユネスコだもんなー」

彼は気が付いたようだったが、少し遅すぎた。



※ 初出:1998発行「わくわく水口ランド 1号」;その後改変(演出増);最終更新 2003.04.26


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